東京地裁刑事部。(その2)

まず人定質問*1。そして起訴状朗読*2
「公訴事実 ○○こと××は、新たに開店したカラオケボックスの店頭で『△△組の者だが、誰に断って商売をしているのだ?挨拶するべきところがあるだろう』と、暗に金銭を要求した」
格好良過ぎです、検察官。
それから裁判官による黙秘権告知*3が続き実質的な審議の開始です。


細かい進行状況は略します。
「事実の認定は、証拠による*4」の言葉どおり、検察官からの証拠提出、弁護人の「すべて同意します」の回答。
そして弁護人からの証拠提出と続きます。
そこで検察官のこの一言。
「証拠能力については同意しますが、乙一号証の証明力は争います」
そういうことなのか!!
概念上の半理解でしかなかった証拠能力と証明力の違いが見えた瞬間でした。
この乙一号証とは、被告人の暴力団脱退通知なのです。
過去に同種の事件を起こしている被告人が、今年5月の出所後すぐに暴力団に身を寄せて再度の犯罪に至った経緯が問題になっているのです。
そこで新たにわかったこととして「○○こと××」の「○○」とは、暴力団組長の苗字。被告人は組長に養子縁組*5し苗字が「××」から「○○」になっていたのです。
本当に暴力団から脱退するのであれば、その組長と離縁*6するはずなのですが、それを行っていないから脱退通知の証明力に疑いが残るのでしょう。
起訴状からも、このような目的の養子縁組を認めないという、検察官側の姿勢すら伺える点が興味深かったです。


以後は、真実探求というよりも被告人の出所後あるいは釈放後の身の振り方を中心に審議が進みました。
暴力団に戻り再度の犯罪を起こすことが明らかな人間を短期の懲役とすることへの疑問です。
語りかけるような検察官や裁判官の口調から明らかなように、この法と秩序の守護者は被告人への嫌悪感や敵対感を明らかにしません*7
刑法の現場では。行為無価値・旧派が貫かれていることを確認し、東京地裁を後にしました。


おまけ
今回の裁判、被告人以外の人々である裁判官、検察官(二名)、弁護人に共通すること。
みな、オレより若い

*1:刑事訴訟規則196条

*2:刑事訴訟法291条第1項

*3:刑事訴訟法291条第2項

*4:刑事訴訟法317条

*5:民法722条以下

*6:民法811条以下

*7:たとえ内心で思っていても