白い巨塔

我が子がこの世に生を受けて、約二週間が経過した。
やたらと手を伸ばし、触ったものをしっかりと掴もうとしている。




今年の1月〜3月の三ヶ月間、択一試験前だというのに、金曜夕食時に「白い巨塔」(ビデオ録画)を二人で見ていたのだ。「これが準備的口頭弁論なのか」とか「債務不履行による損害賠償請求だろう」とか、とにかく思いつくままに言っていた記憶がある。
さて、エンドスクロールでは、何かを掴もうと天空へ伸ばされた手が映るシーンがある。この手が誰の手なのか、ずっと志半ばで倒れる天才外科医財前の手なのだと思っていたのだが、本放送終了後の特番で明らかになるように、これはその一番弟子の青年外科医の手であった。
この青年外科医は無論出世欲、名誉欲、そして性欲すら持つ通常の男性である。
ごく当たり前の人間として欲しか持たないゆえに、この青年が無欲に見えてしまう様があのドラマの真骨頂なのだろう。
そして、彼が掴み得たのは、ただ一人病院に残り得て患者と向き合う、医師としての当たり前の生活であった。




我が子が伸ばした先には、常に誰かしらの手がある。
大人の指を必死で掴む我が子は、しかしその指を見ていない。遥か彼方を望んでいる。
その向こう側に、我が子は何を見ているのだろう。